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中橋愛生(NAPP)の不定期日記
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 第一回となる東京佼成ウインドオーケストラ作曲賞本選会を聴いてきました。

 取りあえず、本選出場者と結果を演奏順に。

ホセ=スニョール・オリオラ(スペイン)
「室内交響曲 第1番」(フェネル特別賞)

木村 政巳(日本)
「見えない都市」(第三位、海外審査員特別賞)

バーナビー・ホーリントン(イギリス)
「コン・ブリオ」(第二位)

ジョン・ウィークス(イギリス)
「プロセッション」(第三位)


 フェネル特別賞は佼成ウインドの団員の推薦により贈られる賞。

 今回の本選出場作は、どれも傾向が異なる作品。どれも一定水準は超えている作品で、改めて日本の「吹奏楽作家」の作品の低質さを痛感する。

 オープニングにクリフトン・ウィリアムス「ファンファーレとアレグロ」。第一回ABAオストワルド作曲賞受賞作をここに持ってくるのは、一種の縁起担ぎか。

 スニョール・オリオラ「室内交響曲」は、今回のノミネート作品では最も「吹奏楽的」な作品。調性的な響きが時折するのだけれど、その使い方が「あざと過ぎて」浮いていたかも。全体的に音楽の息が短く、何を聴いているのか分からない。また、音が厚過ぎるのか多すぎるのか、混濁した響きが多く、これも音楽的な焦点がぼやける結果に。ワイングラスを指でこすって音を出す、などの効果が「思いつき」に終始してしまうのはヨーロッパの作曲家の特徴なのか。また、「吹奏楽である必然性」がどれ程のものだったのかは疑問。楽曲の完成度としては最も低かったので、順位が付かなかったのは妥当なところ。ただ、演奏していて最もカタルシスを感じられるものだったのかもしれない。それがフェネル賞につながったか。

 木村「見えない都市」は、日本交響楽振興財団とか、そういった作曲コンクールでよく聴くような内容。とてもよく書けていて流石だと思うけれども、「どこかで聴いたことがあるような」感は拭えない。随所でのクラリネットのdiv.による響きなど、オーケストラでは出せない吹奏楽独自の表現を引き出そうとしていた箇所があったのはとても好感が持てたけれども、曲全体の造り方は、やはりオーケストラ的な書法から脱しきれていなかったように思う。

 休憩を挟んで、ホーリントン「コン・ブリオ」は、吹奏楽団をビッグバンド的に捉えてジャズ・イディオムを用いた作品。解説にあったストラヴィンスキーはあまり感じなかったのだけど、タネジ(解説中ではタナージュと誤訳)やバードウィスルの影はよくちらつく。ちょっと現代の音楽シーンを知ってる人ならば、典型的なイギリスの現代音楽のスタイルだと気付くはず。だから、やはり目新しさは感じられなかった。もしかしたらマーラー作曲賞や2agosto作曲賞といったものと掛けていたのかもしれない。
 個人的に、吹奏楽編成をビッグバンド的に扱った「現代音楽」路線というものには可能性を感じられない。フリージャズの奏者などのほうが圧倒的にクオリティの高いものを創れることが分かっているからだ。この路線の作曲家が次世代を担えるのか、と言うと非常に疑問である。

 ウィークス「プロセッション」は編成が特徴的。Saxなどを省いた管弦楽の管セクションのみに近いけれども、パートによって奏者数は様々。クラリネットは4人だしトランペットは5人、パートによっては2人だけのものもある。1パート1人のいわゆる「ウインドアンサンブル」様式であり、当然ながら曲調も室内楽的な部分が多く、響きはそれだけ洗練される。この種の作品を聴くといつも思うのだけど、このような編成規定は音楽を整然と管理しやすくなると同時に、室内楽や管弦楽といった既存の演奏媒体に接近することになる。これはいくら高度な内容を表現したところで「吹奏楽《独自》の」音楽表現を獲得するには至らない。


 曲の内容としては後半2曲の方が素晴らしかった。しかし、後半2曲は「他の演奏媒体に接近」する内容であったことは確かだ。「吹奏楽」と一言で言うけれども、それは「シンフォニックバンド」なのか「ウインドアンサンブル」なのかは明確にされていない。けれども、「吹奏楽でしか出来ない音楽」とは一体どのような音楽なのだろう?
 今回の作曲賞、吹奏楽で「演奏出来る」作品の創出という意味では、近年稀に見る成果を挙げたと言える。しかし、広く「現代の音楽界」で見た場合、どれほどの「新しさ」があったのか。「吹奏楽では聴いたことが無い」ではなく「誰も聴いたことが無い」音楽がこの先生まれていくべきであり、吹奏楽とは「未開拓の分野である」ことをもっと深く掘り下げて考えて行くべきだろう。
 そうした意味で、今回が「第一位なし」という結果になったのは、極めて妥当な評価であったと思う。


 ちなみに、今回の会場では、普段吹奏楽の演奏会では絶対に姿を見ないような《大家》をたくさん見かけたし、実際に何人かとも話をすることができた。
 これには、この作曲賞がこれまで吹奏楽の世界ではなかったような幅広い方面へのアプローチをしていたことが背景にある。日本現代音楽協会、日本作曲家協議会、各種企業やマスコミ・・・・・ これによって多方面の関心を集め、様々な協賛を取り付けたのはもちろん、実際に足を運ばせる結果に至ったのは大いに賞賛すべきことだろう。
 また、演奏を担当した東京佼成ウインドオーケストラの熱演には心から敬意を表したい。

 これだけの環境を整えてもらったのだから、作曲家はそれに応えないといけない。次回のこの作曲賞で、「誰も聴いたことが無い《新しい》音楽」が聴けることを心から期待するものである。
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男性
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1978/06/19
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作曲家、のはず
自己紹介:
作曲家。
東京音楽大学・非常勤講師(作曲)。
NHK-FM「吹奏楽のひびき」担当。
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